古書くさかんむり
松本信太郎さん インタビュー
2018年3月21に開催された「志津でもっと本を楽しもう!」のトークイベントに登壇された松本さんは、図書館司書を辞め古書店を始められた方、2018年5月1日からは佐倉市立美術館1階に実店舗を構えることになりました。開店前の忙しいときでしたがあらためてインタビューをお願いしました。
図書館司書から古書店店主へ
― 松本さんは、もともと図書館司書として働いていましたよね。松本さんはそこから出て、新しいことに一歩を踏み出したわけですが、具体的に本屋をやろうというのは、いつごろから考え始めたのでしょうか。
松本 2016年3月の佐倉城下町一箱古本市に出店してみて、これは面白いと感じたのが大きかったです。すごく背中を押してもらった気がしました。
― そのときは一箱古本市に参加したのも初めてですよね。
松本 図書館は無料の施設でしたので、お金を出して本を買ってもらうことが自分にとってはとても新鮮でした。
― 本を買って楽しむと人と図書館を利用する人は客層が違うのかもしれないですね。
松本 一箱古本市に出たときに、本が好きな人たちがこんなにたくさんいるんだという印象を受けました。図書館ではあんなに本の話をしたことありませんでしたから。みんなが本の話を熱くするのでびっくりしました。こういう人たちはここにいたのかと。
― でも、公務員を辞めて古本屋になるとは思い切った決断でしたね。
松本 図書館に戻って3年が過ぎる時期でしたので、次の異動でまた市役所内の事務仕事に戻るような気がしていましたし、もともと本の仕事がやりたくて図書館司書になったので。それと市役所でいっしょに働いていた人が亡くなったりということもあって、仕事っていったい何だろうと疑問に思うようになりました。あとバンド仲間を見ていても、みんな不思議と生きているから。
― ミュージシャンやアーティストはよくわからないけど生きてけるよね。
松本 まぁ、人はすぐ死んでしまうのだから好きなことをしようと。
― いろんな古本屋があると思いますが、主に装丁に凝った本を集めたり松本さんの古本屋はかなり特殊な方向へ舵を切りましたよね。
松本 全方位の本を集めた古本屋をやるのは難しいです。一人でやっているということもありますが、本をそろえるにもいろいろな知識が必要なので勉強がたいへんです。といっても勉強も楽しいのですが。
― 得意なのは文学ジャンルですよね。美術や音楽はどうですか。
松本 美術関係はまだまだ勉強不足です。もっと広範な知識がほしいです。音楽は演奏はするのですが不思議なことに本とはリンクしていないですね。
― 文学を中心に装丁に凝った本を集めていますが仕入れにもお金がかかっていると思いますが回収できるのですか。
松本 売れるときは数万円の本が売れたりもしますがまだまだ回収には至りませんね。古本屋のやりようはお店ごとにそれぞれで手頃な本を中心にどんどん転売していく方法もあるし、高い本をセレクトして買って捌いている人もいます。
― 個人の目利きにかかってくるわけですね。
松本 目利きのレベルが自分よりも遥かに上のお店はこちらが欲しいと思う本には関心が薄かったりして、そういった意味での棲み分けがあったりします。もちろん競うときもしばしばありますが。
― 買う人のイメージもついているのでしょうね。お客さんをつくっていくのも同時にやらないといけませんね。
松本 小さなお店ですので核となるジャンルをある程度明確にした方がいいのかなと思っています。実は先日のイベントのときにはまだ決まっていなかったのでお話できなかったのですが、今度佐倉市立美術館の1階にお店を出すことになりました。そのことで自然とそうした形になると思います。
― 美術館のお店はいつから。
松本 5月1日オープンです。什器から揃えていかないと。
― 結構たいへんですね。今回の図書館のイベントを終えてみて松本さんの感想はいかがでしたでしょうか。
松本 思っていた以上にトークイベントに興味をもってもらえたことに感謝しています。ただ、慣れていないメンバーでのトークだったこともありいろいろとご批判もあったこととは思います。
― みんな話したりないだろうなと感じました。当日本は売れましたか。
松本 おかげさまである程度の売上がありました。ただ、天気が悪かったのが残念ですね。図書館の来館者数が400人と聞きましたが晴れていれば1000人以上は来ていると思います。
― イベントの後反応はありましたか。
松本 イベントのあとはがきをくれた方がいました。そのほかには反応はなかったかもしれません。それはネット書店だからかも知れないですね
― 今回のような図書館のイベントを続けることに関してはどうでしょう。
松本 図書館さんが本屋さんといっしょに何かをしようとしてくれるのはうれしいです。今後も続けていくのであれば、主催している図書館さんが「ライブラリー・ラボラトリー」をどういったテーマで取り組んでいるのかを市民の皆さんに分かりやすく示すことも大切かと思います。そうすることで図書館内部での共通認識にもなるでしょうし。また、続けることによって、本を借りるだけではなくて所有する楽しみに繋がってくれるとうれしいですね。
古書は日用の工芸品
ー 今後やりたい企画はありますか。
松本 佐倉市立美術館にお店を出すので佐倉地区でアベイユブックスさんや美術館とも連携していきたいし、数年のうちに佐倉図書館も建て替えで新しくなると思うので、そうしたところとも何かできればと思っています。そして本そのものをもっと掘り下げる企画をやっていきたいですね。一冊をじっくり手にとってもらえるような企画をしていきたいです。いずれにしても続けていくことに意味があると思います。
― 今回のイベントは公共図書館と書店がいっしょに何かをすることができるのかという実験だったと思います。やってみて思ったのですが来た方に本を手に取ってもらえるかは、やはり本屋さんがどれだけ熱意をもって本をすすめられるかにかかっていると感じました。
松本 一箱古本市には本好きの方がたくさん来ますよね。
― でも、出店者さんたちが常連さんたちだけになっているのでもっと地元の人にも参加してほしいと思っています。地元の本好きの人はまだまだいると思うのでそういう人たちのネットワークをつくっていきたいと思っています。
松本 一箱古本市で、たくさんの人とつながることができました。ときわ書房の日野店長もアベイユブックスさんも、初めてお会いしたのは一箱古本市でした。あと本好きはツイッターで発信している人が多いので佐倉でいろいろな人が発信して、何かが生まれると面白いと思います。
― アベイユブックスさんが言っていましたが、美術館でよい企画展があると、そのお客さんが本を買いにくると言っていました。美術館が何をやるかが地元の本屋さんにとって結構影響するのかもしれません。
松本 美術館に来た記念にということと同時に地域の皆さんも楽しめるお店にしたいです。市民ギャラリーでは毎週展示が入っていますし、そうした方々が日常的になにか面白い本がないかなと気軽にお店に覗いてくれるようになってほしいです。また、そうした美術に関心のある皆さんが読み終えた本を買い取って販売することで、次に手にした方の知識や技術の向上に繋がれば1冊の本の役割としてとても面白いように思います。
― 最後に、どんな古書店を目指していきたいですか。
松本 科学的根拠はありませんが紙の本を手にとって読むことの快楽はまだ人間のDNAのなかに残っていると思います。そしてその記憶が今後も受け継がれていくことへの一助となるようなお店を目指したいです。それと、本の造形の素晴らしさをもっと知ってもらいたいと思っています。装丁に革や金箔を使っていたり、その職人の名前が入った本もありますし。
― 本がまだ特別なものだったときにつくられたものですね。
松本 本の中身も大事なのですが本というモノ・形態が持つ役割があるのではないかと思っています。今度美術館にお店を出しますが美術品の実物は手にとることは難しいのですが、本であれば身近に所有し手にとって触れることもできます。レプリカではなく目的を持ってそのために作られた本物に実際に触れることで、それぞれの人がそれぞれに感じる心の動きがあると思います。そういったことを楽しんでもらえるような本を揃えたいと思います。
― 日常で使う工芸品に近い感覚ですね。
松本 本は日用品だという視点を大事にしたいと思っています。あくまで生活の一部であるものだということは忘れてはいけない。読まれてこそ触られてこそ価値があるし、すばらしさがあると思っています。いろいろと大げさで小難しいお話もしてしまいましたがお店は柔らかくて楽しい雰囲気にしたいと思っていますので、皆さまのお越しを心よりお待ちしております。
(聞き手 ブックリンクサクラ 河村淳司)
古書くさかんむり
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